ホーム > ご案内

<重要文化財保全修理工事竣工記念「えびす懸賞論文」受賞作品発表>

令和元年から令和3年度の三ヵ年で実施していた、表大門・大練塀重要文化財保存修理工事の竣工を記念し、「えびす信仰について」をテーマに「えびす懸賞論文」の募集を致しましたところ13本の応募がありました。受賞作品は以下の通りとなります。
1、 最優秀論文賞
河内 厚郎 「水と芸能とヒルコ神」

【講評】
  西宮神社の社伝に基礎をおきながら、史料や先行研究に依拠してヒルコの性質を考察することで、神話時代の、ひいては現代にもつながる日本社会の有り様と日本人の精神構造、この場合阪神間モダニズムの内面からの読み解きを試みている。
前半では、神話におけるヒルコの物語に注目する。河合隼雄氏の議論を参照し、唯一神の存在しない日本神話に固有の特徴は「中空均衡型」であり、微妙な均衡関係を保った神々の存在があるとする。そして、かかる特徴のなか追放されたヒルコの異端性に注目し、彼はアマテラス=女性の太陽神に対するヒルコ(日の子)=男性の太陽神であり、ギリシャ神話との比較から西洋的自我の萌芽であり、一時は切り捨てられるものの、最終的に彼を祀った西宮は西洋的自我を受容したとして、和洋折衷の阪神間モダニズムの精神性にも接続させている。
後半では、ヒルコともつながりの深い人形遣い・文楽について考察を加える。前半における議論を継承しつつ、文学者によるキリスト教文明の日本における受容にまつわる指摘を引用し、近年上演された、キリストの生涯を描く人形浄瑠璃の事例について、異なる事物を同化していった、阪神間モダニズムのあらわれと評価する。
史資料の引用と研究者・文学者の見解を前提に、ヒルコとその伝播に重要な役割を果たしたとされる人形遣い(文楽)という、西宮神社において重要な2つのテーマについて、西洋との対比を織り込みながら、阪神間モダニズムへの新たな視座として導入を試みた内容である。新規性、引用・展開・表現の適切さ、論旨の明快さ、などを総体的に判断し、最優秀賞に選定した。

論文を読む

2、 優秀論文賞
後藤田 瑠美 「西宮神社における神座との「近しさ」」

【講評】
西宮神社の本殿について、「近しさ」を実感した筆者が、本殿・拝殿の構造・意匠など詳細に分析を行い、その理由を問う。
従来、「三連春日造り」という本邦唯一の本殿の様式がクローズアップされるが、本論は参拝者の目線からいかにみえるか、という斬新な視点から分析が行われている。庶民との距離が近い性格をもつえびす神であるが、本拝殿の開放性を帯びた構造を通じて、現実的・視覚的にもなんとなく本殿(祭神)と参拝者との「近しさ」を演出する、巧妙な仕掛けが施されていたのかもしれないと思わせる内容となっている。
かかる視点を切り口とした西宮神社の社殿にかんする研究は管見の限り見当たらず、新規性という点では申し分ない。また、素朴な疑問を研究論文にまで高めた論証過程も適切である。いっぽうで、少なくとも近世期においては、平日は貴人も畳敷きの拝殿から参拝している。今後は、歴史史料とも関連づけながら、戦災にて焼失前の本拝殿の構造を分析し、「近しさ」について現在との連続と断絶の両側面からの解明が期待される。

論文を読む

3、 奨励賞
伊藤 周太 「えびす神信仰の起源に関する考察」

【講評】
本論文は、古代から中世初期における蝦夷と、朝廷による彼らの西国移住政策を中心に論じ、えびす神の二面性、すなわち、「外来」と「土着」の起源を探る試みである。
六国史を中心に蝦夷の記録を集め、当時の彼らの実態と中央側の認識を示す。そして、列島に土着しながら中央から異民族視されていた蝦夷や俘囚が、彼らの境遇に重ねたり、あるいは庇護を求めるかたちで信仰したのがえびす神ではなかったかと推測する。
また、かかる分析をもとに、えびす信仰が単一民族国家とはいえない日本社会の構造を読み解く手がかりであるとする。
近世期から現在においても、西宮から遠く隔てた奥羽越地域や九州においてえびす神は篤い信仰を集め、さらに海の神(「外来」)としてのみならず、五穀豊穣の神(「土着」)としても崇められている。かかるあり方といかに接続しうるか、直線的な論証は難しいと思われるが、今後の展開が期待される。

論文を読む